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第71話 飲み込まれる者

Author: marimo
last update publish date: 2026-07-26 20:20:27

次に撮影されるのは、物語の中でも重要な意味を持つ、夫婦の回想シーンだった。現在の冷え切った関係とは対照的に、まだ二人の間にかすかな温度が残っていた頃――そんな過去を描く場面である。

セットには、重厚感のあるダイニングが再現されていた。長い年月をかけて使い込まれたように見える広いダイニングテーブル。磨き上げられた木目が照明を柔らかく反射し、その上には整然と並べられたカトラリーと、湯気を立てる料理が置かれている。壁には落ち着いた色合いの絵画が飾られ、天井のシャンデリアが穏やかな光を落としていた。

静かな生活の象徴のような空間だった。

スタッフが息を潜める中、監督が小さく手を上げる。

「……本番、いきます」

空気が張り詰めた。

広いダイニングテーブルを挟み、玲子と蒼一が向き合う。

二人の距離は決して遠くない。だが、その間には目に見えない隔たりが横たわっているようだった。

「最近、お忙しいのね」

玲子の声は穏やかだが、逃げ場がない。

柔らかな響きなのに、言葉はまるで細い刃のように蒼一へ向かう。責めているわけではない。問い詰めているわけでもない。ただ事実を述べただけ――それなのに、なぜか胸の奥
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